














SAN-30V2-3D:トリマー向け
¥78,000 税込
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「悪いことを言わないから、このハサミは買わない方がいいよ」と言うハサミ屋の話
そんなことを言うハサミ屋が、本当にいるのだろうか。
いや、いる。
ここにいる。
正直に言えば、そんなことを言ってしまっては商売にならない。そう考えるのがふつうだ。でも私は、トリミングの現場にいるあなたに、少しでも「時間」と「神経」と「手首」を無駄にしてほしくないと思っている。ただそれだけの話だ。
このハサミについて説明する前に、少し現場の話をさせてほしい。
1.「時間が足りない」ーー一日6頭以上は無理だと思っていたけど
トリマーという仕事は、「犬を可愛くすること」だと思われがちだ。もちろんそうだ。でもその裏で、一頭一頭にかけられる時間はどんどん減っている。予約は詰まり、キャンセルは直前。新しい犬種もどんどん来る。サイズも性格も毛質も、みんな違う。
6頭、7頭、それ以上こなしているトリマーさんもたくさんいるだろう。だけど、その日一日が終わる頃には、まるでマラソンを走りきったような疲労感が残る。
私はよく、道具の話になると「このハサミなら仕事が早くなるよ」と言われるのを耳にする。でも、本当にそうなのだろうか。
少なくとも、いま話しているこのハサミに関しては、正反対だ。
むしろ仕事は遅くなる。
このハサミのカット率は25%程度。一般的なセニングよりもずっと少ない。つまり、一度に減らせる毛の量が少ない。滑らかで繊細な仕上げには向いているが、大胆な量調整やスピード重視の現場では、明らかに「遠回り」になる。
だからこそ、私はこのハサミを「買わない方がいい」と思っている。
2.「手首が痛い」ーーガチガチになった握り、バネの切れ
長年使っているトリマーさんほど、「手首や肘の痛み」に悩まされている。
特に、はさみの開閉が多い仕事をしていると、筋肉は固くなり、関節はこわばる。職業病だとあきらめている方も多いが、実は道具との相性や重さ、バランスが関係していることもある。
このハサミは、軽い。とても軽い。
それだけ聞くと、手首に優しいと思うかもしれない。でも問題は別のところにある。
このハサミ、刃がとても繊細にできている。だから少しでも力を入れすぎると、刃同士がこすれすぎてしまう。結果として、指や手首に「変な力」が入りやすい。
使っていると、無意識に力をかけすぎてしまう。
開閉のたびにわずかなストレスが蓄積し、それが夕方には「痛み」に変わって現れる。
悪いことは言わない。
痛みをすでに感じている人は、こういうタイプのハサミは選ばない方がいい。
3.「仕上がりに納得できない」ーーセンスの問題じゃない
トリミングの世界では、「センス」が問われることが多い。特に顔周りのバランスや、シルエットのニュアンスなどは、「なんか違う」と言われてしまえばそれまでだったりする。
でも、私は声を大にして言いたい。
仕上がりの不満は、センスのせいではないことも多い。
たとえば、このハサミ。
25%カットということは、毛がたくさん残る。つまり、毛流れを自然に整えるというよりは、あえて「残す」ための道具だ。
最終的な微調整、顔まわりの表情づくりには良いかもしれない。だけど、逆に言えば、「これ一本で全部を済ませたい」人には絶対に向かない。
全体にムラが出やすく、「あれ?なんかバランス変かな?」と思う場面が出てくる。
でもそれは、あなたの感覚のせいではない。ハサミの特性が、そういうふうに働くからだ。
仕上がりに納得できず、鏡の前で何度も見直す時間。
それが積み重なると、1日全体の流れも崩れてしまう。
じゃあ、誰が使えばいいのか?
こんなふうに言っておいてなんだけど、このハサミには「光る場面」もある。
たとえば、
・仕上げの最後に、ほんの少しニュアンスを足したいとき
・目元、口元など、細かいところに入りすぎたくないとき
・全体に重さを残したいけれど、毛先だけ柔らかく見せたいとき
そんなときには、この25%というカット率が絶妙に効いてくる。
言い換えれば、「仕上げ専用」「ニュアンス専用」として使えるなら、悪くない道具だ。
でも、「万能な一本がほしい」「1日に何頭もこなしたい」
そういう人には、正直言って向かない。
道具は、相棒であり、リズムを作る存在
トリマーの仕事は、技術職であり、体力仕事であり、アートでもある。
でもそのすべての土台には、「リズム」があると思う。
スピードのリズム
犬との距離感のリズム
自分の集中力のリズム
そのリズムを作るのが、意外と「道具」だったりする。
ちょっとでも引っかかる感触があれば、リズムは崩れる。
思った通りに毛が落ちないとき、集中力も削がれてしまう。
だからこそ、私は言いたい。
このハサミは、リズムを加速させるためのものではない。
どちらかというと、立ち止まって、考える時間を生むようなハサミだ。
つまり
「悪いことは言わない。このハサミは買わない方がいいよ」
それが正直な気持ちだ。
このハサミが合う人も、きっとどこかにはいる。でも、万人向けではない。
むしろ、トリミングという現場のスピード感や、肉体的な負担、精神的な疲労を考えると、「このハサミじゃない選択肢」があるんじゃないかと思う。
ただ、もしあなたが
・仕上げの質を一段引き上げたい
・今の仕事に少しだけ「遊び」や「余白」を取り入れたい
・道具に対して「効率」以外の価値を求めたい
そんな気持ちを持っているなら、手に取ってみるのもいいかもしれない。
でもそのときも、あえて言わせてほしい。
「買わない方がいいかもね」って。
最後に【追記】
私は、はさみを作る側の人間です。
でも本当の意味でこの仕事が報われるのは、「このはさみを使ってよかった」と誰かが思ってくれたときだけです。
あなたが毎日、犬と向き合い、人と向き合い、自分の手と心で「美しさ」や「安心感」を形にしていることを、私は知っています。
トリマーという仕事は、簡単ではありません。
時間との戦いであり、体のケアも必要であり、気持ちが折れそうになる日もあると思います。
それでもなお、笑顔で帰っていくワンちゃんや、その姿に喜ぶ飼い主さんを見ると、「また明日も頑張ろう」と思えるーーそんな職業です。
あなたの手が、少しでも軽くなるように。
あなたの心が、少しでも折れにくくなるように。
そして、あなたの仕事が、誰よりも「あなたらしく」輝くように。
私は、遠くの工房から、ひっそりと、でも本気で応援しています。
どうか、無理をせず、でも夢は持ち続けて。
あなたがこの先も、長く、楽しく、トリマーを続けていけますように。
【名称】SAN-30V2-3D
【大きさ】6インチ
【鋼材】A.Cobalt
【櫛刃】30目の2段
【棒刃】笹刃
【ネジ】埋め込みネジ
【ハンドル】オフセット
【重量】53.5g±2g
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